未来を予測して危機を回避!シナリオプランニング

シナリオプランニングとは?

シナリオプランニングの概要について紹介しましょう。
シナリオプランニングとは、未来に起こりえる複数の未来シナリオを描いたうえで、自社がどう対処すればいいのかを導き出す手法です。もちろん確定した未来は存在しないため、シナリオプランニングで定義する変化は不確実になります。

不確実であるため、可能性のある複数のシナリオプランニングをアウトプットすることが必要です。
例えば新型コロナウイルスという脅威の今後を考えたときに「ワクチンが開発される」という確実性の高い未来があります。その後「新しい生活様式が広がって人が外に出なくなるのか」「巣ごもりから解放される反動で外食頻度が高まるのか」は不確実です。またその他にも変化があるはずです。そのすべての軸でシナリオを考える必要があるのです。

1つの方向だけでなく、さまざまな面から俯瞰してシナリオをイメージできるのが魅力になります。

複数の要素を書き出すなかで「未来のどんな変化に向けた戦略に力を入れるべきか」という問題について考える必要があります。そこでは主に「不確実性」と「インパクト」の2軸に分けて考えることで思考を整理できます。

インパクトとは

インパクトとは「その未来の変化が市場に及ぼす影響力」です。
例えば「法律改正などによって事業が続けられない」「顧客の生活習慣が大幅に変わってしまう」などの要素はインパクトが大きくなるでしょう。
しかし「テクノロジーのマイナーチェンジ」などは(場合にもよりますが)インパクトが小さいものになります。もちろんインパクトが大きなものに関しては優先度が高くなります。

不確実性とは

「不確実性」とは「その未来の変化が実現する可能性」です。
「既に確定している法律の変更」に関しては確実性が高いものです。
しかし「社会トレンドの変化」に関しては、現実のものになるかどうかは確定していません。不確実性が高いものは施策を打つのにリスクが伴いますが、同時に他社が気付いていない可能性が高い可能性もあります。

シナリオプランニングの要素はPEST分析で考える

同じく外部環境の変化を予測するためのフレームワークに「PEST分析」があります。
PEST分析とは「政治」「経済」「社会」「技術」の4つの側面から自社ビジネスの外部環境を予測するツールです。
PEST分析とシナリオプランニングは「未来志向のフレームワーク」という意味では同じです。PEST分析はシナリオプランニングを作る際に活用します。

PEST分析は「点」で外部環境について考察するフレームワークです。
法律の改正や社会トレンドの変化などを「スポット」で判断します。
一方、シナリオプランニングは「線」でシナリオを考えるために使います。
例えば2021年のPEST分析では「薬価法の改正」という”点”の要素がほぼ確定しています。
その前後のシナリオプランニングとしては「ワクチンが出ることが発表され、消費者は安心する」「会社単位でワクチン接種が義務化される」「ワクチンの効能について発表がある」などの”線の要素”になるのです。

シナリオプランニングを活用した昭和シェル石油の事例

シナリオプランニングをうまく活用した企業として有名なのが昭和シェル石油です。端を切ったのは1973年のオイル・ショックの際でした。当時は石油の所有権が欧米の石油メジャーから、原油国に移ったことをきっかけに原油の価格が5倍まで膨れ上がったのです。

この石油危機に関して昭和シェル石油は事前にシナリオプランニングを組んだことで、アクションプランを設計していました。

具体的には「石油価格が高騰した後の世界」についてストーリーを描いていたのです。「西欧の産業は止まるだろう。電力会社は火力発電所のエネルギーを重油から石炭に変えるに違いない。すると重油は余る。重油をガソリンに変える設備に投資をしなければいけない。」というストーリーを描いていたのです。またそれに加えて天然ガスの導入などもいち早く進められるように未来を見ていました。

実際にオイルショックで石油価格が高騰したと同時に昭和シェル石油はアクションプランを迅速に発動。日本の石油メジャーで唯一売り上げを下げなかったのです。

シナリオプランニングの6ステップ

では続いてシナリオプランニングを作成するための流れを見ていきましょう。

1.自社のビジネスとは何か?市場はどこか?

未来設計をする際に間違ってしまいがちなのが「自社に関係のない要素も分析してしまうこと」です。未来のストーリーを描くうえで顧客を含めた自社のステークホルダー以外の未来は関係ありません。ですので、まずは自社のビジネスモデルを改めて整理して、課題と優位性を定義しましょう。

順番としてはまず「ジョブ理論」で自社の顧客が求めていること(ジョブ)を書き出します。ジョブとは、ある状況下において「顧客が満たされていない不満」や「顧客がなりたいと感じてる姿」などを指します。ジョブ理論で自社がフォーカスすべき顧客、市場を定義します。

その後、ビジネスモデルキャンバスに落とし込んでビジネスモデルを整理します。あらためて自社の課題や他社との優位性が見えてきます。

2.自社のビジネスに合わせて環境変化要因を洗い出す

ここまでできれば、続いて外部環境の分析を行いますまずは時間軸と地域軸を考えます。例えば「20年後の日本国内のシナリオプランニング」や「10年後の海外市場のシナリオプランニング」を定義しましょう。

時間と地域の定義に合わせてPEST分析や5forcesなどの外部環境分析のフレームワークで変化を書き出します。
これらの外部環境要因を「ドライビングフォース」といいます。

3.「インパクト」と「不確実性」で2軸で自社に影響を及ぼす要因を整理する

続いて、2で書き出したドライビングフォースを、インパクトと不確実性の4つのマトリクス図に起こして書き出していきます。4つの象限はそれぞれ以下のような解釈になります。

インパクト大×不確実性大
インパクトが大きいので売上貢献率が高く不確実性が高いので他社が見つけていない可能性が高い変化です。優先度が高くなります。

インパクト大×不確実性低
インパクトが大きく不確実性が低いので、他社が見つけやすくなっているという状況です。インパクトは高いものの優先度は低い要素になります。

インパクト低×不確実性高
売り上げへの貢献度は低いものの、不確実性が高いので他社を出し抜ける可能性が高い施策になりますが、慎重に検討しなければいけません。

インパクト低×不確実性低
インパクトが低く、不確実性が低い領域は最も優先度が低い部分になります。

4.将来のシナリオを書く

その後はマトリクス図に起こした要素をもとにシナリオを書いていきます。
前提としてシナリオプランニングは不確実性が高いものです。
書いているうちに「可能性がないかもしれない」と不安になるかもしれませんが、確定した未来は誰にも予測できませんので、安心して書いていきましょう。
それも1つではなく複数のストーリーを書いていかなければいけません。

5.完成したシナリオとビジネスモデルを紐づける

完成したシナリオをあらためて自社のビジネスモデルに紐づけていきましょう。
最初に定義した課題や他社に比べた優位性などを補完できるような形でシナリオを結びつけます。
自社のビジネスのどの部分で、シナリオプランニングを完成させられるのかを考えていきます。

6.定期的に見直す

フレームワークが使えないという要因の多くが考察して終わりという状況でとまっているというのがあります。あくまで考察は考察、実ビジネスをまわしていきながら戦略を振り返り、ブラッシュアップするというサイクルが必要になります。事業アクションの見直しのような頻度ではなく、半年、1年などのスパンで見直しをすることをおすすめします。

以上がシナリオプランニングの手順となります。
シナリオプランニングを身につけることで、いざという時に自分がどう動けばいいか焦らずに行動することができます。